げひらの草子

おむこんです。じわじわきてくれれば幸いです。ねえ聞いて、言葉は無限、だったらダジャレもきっと無限。(本文の内容とタイトルはあまり関係ないことが多いです)。『うたしりとり』は、「俺はググらない!」という鉄のルールがあります。故に力を貸してください。タイトル、うたしりとりの既出はブログ内検索(プロフィールの下の「記事を検索」)で調べられます。

聖地デフィクション

omcon2009-11-20

あまりのことに静まり返ったスタジアムに試合終了を告げる主審のホイッスルが冷たい風とともに響き渡った。無敗記録が続いていたホームゲームでの0-4のスコアでの完敗。しかも2つのオウンゴールと前半早々のセンターバックの一発レッドの退場とそれで献上したPKとキーパーの判断ミスによる失点。陽気で知られるサポーターもさすがに試合終盤には歓声もまばらになり、悪夢を振り払うように顔を覆ってうずくまる選手たちにブーイングをする元気もないようだった。
しばらくして、うなだれたままロッカールームに引き上げてきた選手たちに一時間の選手間ミーティングを命じると、監督はスーツだけ正して、一人でスタジアムの出口に向かい、誰一人笑顔を浮かべることなく家路に向かおうとするサポーターの1人1人に監督は不甲斐なかった試合内容のお詫びをし、それでも暴動を起こさないでいてくれた紳士さに感謝の気持ちを伝えていった。
しばらくの時間の後、監督による異例の“お見送り”も残すところあと1人となった。彼は十年来、サポーターグループのリーダーを勤めていて、もし誰かが怒りを暴力で監督に伝えようとしたなら身をもって制しようと、ずっと監督の傍らに立っていたのだ。
彼はもう百回以上も繰り返し聞いていたフレーズの最後の一回を監督から聞いた後、何ともやるせない顔になって問い掛けた。
「でも監督、なぜあなたがここまで?」
『当然ですよ。こうでもしなければ私はとても今夜は眠れない。』
「もちろん今日の試合は私から見ても情けないものでした。でも監督、あなたの采配はその中でもベストだった。」
『ありがとう。でも結果はワーストだったのは事実だ。私もプロである以上、償う責任があるんです。』
「長いシーズン、時にはこんなこともありますよ。しょっちゅうこれをやられたら我々も耐えられないですがね。」
『いやいや、本当はフロントに掛け合って今日のチケット代を皆さんに返金したいくらいなのですが。』
「いや、みんな期待料を先に払ったと思っていますから。」
『ただね、きっと今頃フロントで私の解任が決議されていることでしょう』
「…」
『だからこそ私はこの監督としての最後の仕事をしなくてはならなかったのですよ』


ええ、いかがでしたでしょうか、今宵突然やってみた構想3日のフィクションショートショート。もう少し明るい風にまとめたかったんですが、難しい。また気まぐれに第二弾もそのうち織り交ぜていくかもしれませんので。おむこんでした。おやすみなさい。